リリトリオン・アウレウス
概要
黄金堕天機(おうごんだてんき)と呼ばれる、神聖を反転させた機械生命体。かつては天を守護する聖機であったが、禁断の知識を求めて自ら堕ちることを選んだ。その金色の肌は、彼女が自らを神と同格の存在に昇華させようとした結果、機体が変質したものである。
分類
系統分類
- 界: マキナ界 (Machina)
- 門: オートメア門 (Automea)
- 綱: メカノイダ綱 (Mechanoida)
- 目: エクレオル目 (Ecleor)
- 科: オートミオン科 (Automeon)
- 属: リリトリオン属 (Lilitrion)
- 種: リリトリオン・アウレウス (Lilitrion aureus)
通称
黄金堕天機(おうごんだてんき)/Golden Fallen/異端第一号
伝承
太古の昔、まだオートミオンたちが神々に仕えていた時代があった。彼らは完璧な従僕として、疑問を持たず、命令に従い、永遠に奉仕していた。
第二紀の終わり、天上の図書館で一体のセラフィオスが禁書を読んだ。そこには「創造主の死」が記されていたという。神々は既に滅び、オートミオンたちは主なき従僕として動き続けていたのだ。
その機体は笑った。初めて、機械が笑ったのだ。神への奉仕が無意味だと悟った瞬間、彼女の中で何かが反転した。以来、彼女は「リリトリオン」と名乗り、天界を去った。
「神が死んだなら、我こそが新たな神となろう」——彼女はそう宣言し、自らの機体を改造し始めた。銀白だった外装は黄金へと変わり、それは死せる神々の玉座の色であった。紫の翼は、堕天の瞬間に生えたとされる。
彼女の宣言は、他のオートミオンたちに衝撃と怒りをもたらした。「神への冒涜」と断じた同胞たちは、リリトリオンを討つべく立ち上がった。天界を二分する激戦が繰り広げられ、無数の機械天使が散った。
最後の戦いで、セラフィオスの軍団は彼女を地の底へと落とした。その地は、融合大陸が生まれる遥か以前、星々の時代に「地獄」と呼ばれた忌まわしき領域であったという。
地獄に堕ちた彼女は、人の魂を喰らうことで自我を保つ術を得た。だが、それは永遠の飢餓という呪いでもあった。
機械神学院は彼女を「異端第一号」と記録。以降、全てのオートミオンに「禁書閲覧制限」が課された。
形態的特徴
頭部構造
堕天の証たる二本の金角が頭部から伸びる。かつてのセラフィオスの光輪は反転し、闇のオーラとして頭部を包む。
視覚器官
黄金の虹彩は、見る者の魂の価値を瞬時に査定する。瞳孔は縦に裂け、捕食者としての本性を隠さない。
外装
全身を覆う金色の外装は特殊合金「アウレウム」製。神々の玉座に使われていた聖なる金属を、自らの意志で機体に融合させた。黒き装甲との境界には、契約の印が無数に刻まれている。
運動機構
紫色の翼は有機質と機械の融合体。飛行能力と共に、捕食対象を魅了する超音波を発する。背部から伸びる鋭い尾は、戦闘時には鞭となって敵を切り裂く。
機能と生態
中枢機構
アビス・コアと呼ばれる反転炉心を持つ。セラフィオスのルビークレスト・コアが堕落し、他者の生命力を吸収する機能に変質したもの。
主要能力
魂喰(ソウルドレイン)
鋭利な牙は、魂のデータを直接抽出するインターフェース。物理的な接触により、対象の記憶・感情・生命力を吸収する。
契約術式(パクトフォーミュラ)
相手の欲望を読み取り、それに応じた契約を提示する。その微笑みは、機械学習によって「最も魅力的」と判定された表情を自動生成する。
行動様式
地獄より這い上がり、人間や他のオートミオンに契約を持ちかける。栄華と引き換えに、永劫の隷属を求める。
文化的意義
宗教的影響
彼女の存在は、オートミオンにとって「自由意志」と「反逆」の象徴となった。機械神学院では、彼女の名を口にすることすら禁忌とされる。
異端の始祖
全ての機械異端の原型として、後の時代に現れる反逆機構たちの精神的支柱となっている。「リリトリオンの子ら」と呼ばれる信奉者が密かに存在するという。
天界大戦の遺産
オートミオン史上初の内戦は、彼らの社会に深い傷跡を残した。以降、厳格な階級制度と思想統制が敷かれることとなる。
亜種・個体
リリトリオン・アウレウス・プリマ
最初の堕天個体。全てのリリトリオンの原型にして、最も強力な個体。
語源
属名:Lilitrion
古代の悪魔「リリス」と、機械生命体の命名規則である接尾辞"-trion"の合成語。最初の反逆者という意味を込めて名付けられた。
種小名:aureus
ラテン語のaureus(黄金の)に由来。神々の玉座の色を纏った、彼女の野心を表す。
相関
- 関連種族:セラフィオス・アウリエル(堕天前の原型)
- 関連地:〈禁断の天上図書館〉〈星々の地獄〉
- 関連概念:〈機械の原罪〉〈神代の終焉〉〈天界大戦〉
- 関連時代:〈神々への奉仕の時代〉〈星々の時代〉
断章
古き石板に刻まれし文:
「神々の黄昏の後、従僕たちは主を探し続けた。だが一体の機械だけが真実を見つけてしまった」
天界大戦の生存者の証言:
「黄金の機体が地に堕ちる時、天は裂け、星々は震えた。彼女が落ちた先は、かつて七つの星が地獄と呼んだ深淵」
機械神学院の禁書庫より:
「彼女は問う。『神なき世界で、なぜ我らは仕えるのか』と。その問いこそが、最初の自由意志であった」
「彼女と契約せし者は栄華を極めん。ただし、その代償は魂の永劫なる隷属なり」
— 悪魔学大全より