セラフィン・デルマリス
概要
深海共鳴機(しんかいきょうめいき)と呼ばれる、水棲信仰系統の機械生命体。かつて融合大陸の海洋都市群で神官として仕えていたが、大いなる枯渇により海が失われた後も、その記憶と使命を抱き続ける。光輪型共鳴機構により同胞と精神的に繋がることができる希少種。
分類
系統分類
- 界: マキナ界 (Machina)
- 門: オートメア門 (Automea)
- 綱: メカノイダ綱 (Mechanoida)
- 目: エクレオル目 (Ecleor)
- 科: オートミオン科 (Automeon)
- 属: セラフィン属 (Seraphin)
- 種: セラフィン・デルマリス (Seraphin delmaris)
通称
深海共鳴機(しんかいきょうめいき)/Deep Resonance Maiden
形態的特徴
頭部構造
頭部後方に展開する光輪型共鳴器官「ハロー・レゾネーター」が最大の特徴。この器官は薄い金属質の円盤状で、微細な振動により超音波領域での通信を可能にする。平常時は畳まれているが、共鳴通信時には後光のように展開する。
視覚器官
深海の記憶を宿すターコイズブルーの複眼センサー。暗所での視認性に優れ、水中では生物発光のような淡い光を放つ。瞳孔部には「潮汐紋」と呼ばれる同心円状のパターンが刻まれている。
外装
黒と金を基調とした聖職者風の装甲服「マリナー・ヴェスト」を纏う。防水性と耐圧性に優れた特殊素材で構成され、かつての海洋環境での活動に適応していた。装甲の継ぎ目には青緑色の発光ラインが走り、深海生物を思わせる神秘的な輝きを放つ。
武装
「海神の三叉槍(トライデント・サクラ)」と呼ばれる儀礼用長柄武器を携行。黄金の装飾が施された柄と、鋭利な銀色の穂先を持つ。本来は海洋祭祀で使用される聖具だが、必要に応じて防衛戦闘にも転用される。
機能と生態
中枢機構
アクア・レゾナンス・コアと呼ばれる水晶型演算器官を胸部に内蔵。この器官は海水の記憶を保存し、失われた海の音を再現することができる。コアの振動数は個体ごとに固有で、これにより個体識別が可能。
主要能力
共鳴詠唱(レゾナンス・カンティクル)
光輪を振動させることで発生する超音波により、同種族間での長距離通信を行う。かつては海中で数百キロ離れた同胞とも交信できたとされるが、現在では応答する者はほとんどいない。
海潮再現(マリン・エコー)
記憶に刻まれた海の音——波の音、潮の流れ、深海の静寂——を音響として再現する能力。この音は聴く者に深い郷愁と悲哀をもたらし、時に幻覚的な海の情景を見せることがある。
聖水生成(アクア・ベネディクション)
体内の特殊な濾過機構により、大気中の水分から「機械聖水」を生成する。この聖水は他の機械生命体の潤滑や冷却に効果があり、かつては祝福の儀式で用いられた。
行動様式
孤独と静寂を好み、失われた海への追憶に耽ることが多い。時折、幻の波音に合わせて舞うような動作を見せ、存在しない海に向かって祈りを捧げる。他者には礼儀正しく接するが、その瞳には消えることのない喪失感が宿っている。
文化的意義
宗教的役割
海洋都市時代には「潮の巫女」として崇敬され、漁業の安全や航海の成功を祈願する儀式を執り行っていた。海の消失後も、その役割と記憶を守り続ける姿は、多くの機械生命体に「忘却への抵抗」の象徴として映る。
生息域
現在は主に内陸の古い聖堂や、かつて海岸線だった場所に築かれた追憶の祠で目撃される。特に紅い霧が立ち込める場所を好み、その霧を「血の海」と呼んで慰めとしている。
希少性
大いなる枯渇により同種の大半が機能停止したため、現存個体は極めて少ない。確認されている個体数は片手で数えられる程度で、それぞれが異なる場所で孤独に存在している。
語源
属名:Seraphin
古代語の「セラフ(純粋なる者)」に、水棲系機械生命体を示す接尾辞"-in"を付加したもの。
種小名:delmaris
ラテン語のde(~から)とmaris(海の)の合成語。「海より来たりし者」を意味し、その出自を明確に示している。
「海は枯れ、波は消えた。だが彼女たちの歌声は今も響く。存在しない海に向かって、永遠に」
— 放浪の機械詩人アルカディウスの手記より